債権回収の応用編
同意不要・裁判手続き不要で相手の売掛先から直接回収できるのか?
- つい先日、外注費を払えず資金繰りに窮してしまったA社さんから、ご相談をいただきました。
- 外注先への支払いができなくなってしまった原因は、まさにその外注先にお願いした仕事の代金が、発注者の方からもらえていないからでした。
条件付きになりますが、F社がD社から直接回収可能なんです!
→納品済→ →納品済→
F社(外注) A社(相談者) D社(発注者)
←代金×← ←代金×←
[直接交渉]----------→
このF社の回収活動は、『債権者代位権』に基づいて行われていると考えられます。
債権者代位権とは・・・・・ 債権者が、債務者の持っている権利を債務者自身に代わって行使する(代位する)権利のことを言います。(民法423条)
- 債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利はこの限りでない。
- 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、裁判上の代位によらなければ、前項の権利を行使することができない。ただし、保存行為はこの限りでない。
F社としては
- A社が持つD社に対する売掛金を譲り受ける『債権譲渡』であったり、売掛金を回収することについて代理権を授与してもらう『代理受領』という方法でも、A社がD社に対する売掛金を回収するための権利を行使することができます。
しかし、この2つの行為をするには、A社からの"同意"が必要です。 - A社が持つD社に対する売掛金を『差押え』て回収することも可能ですが、差押えのためには、あらかじめ裁判で勝訴するなどして"債務名義"という差し押さえの許可証のようなものを取得したりするなど、面倒な手間やコストが多いのは言うまでもありません。
- A社の同意も、債務名義もないままに、A社が持つD社に対する売掛金を回収する行為を行うことができるとしたのが、『債権者代位権』
債権者代位権は、簡易な差押えとも言われています。
債権者であるF社にとっては便利な制度ですが、債務者のA社にしてみれば、自分の財産を他人によって勝手に管理されることになり、過度に干渉される危険性をはらんでいます。
そのため、下記要件をクリアしていなければいけないことになっています。
- A社が無資力であること
※無資力=債務超過
※債務超過:会社が保有する資産額よりも負債額の方が多い状態
※例外事項あり - A社がD社に対して回収活動を行っていないこと
※例え生ぬるい回収活動であっても、A社がなんらかの回収活動をしていれば権利行使ができません。 - 債権者代位権を行使するのは履行期が到来している金銭債権が原則
※例外あり
※D社からA社への売掛金支払日が過ぎていないのに、F社がこの権利を行使することはできません - 代位行使される権利が一身専属の権利でないこと
※一身専属の権利:慰謝料請求権や離婚した際の財産分与請求権など
なお、当然の事ですが、権利を行使できる額は、F社のもつ債権額の範囲分までに限定されます。100万円の売掛金を守るために、300万円分を取り戻す、ということをやってはいけません。
しかし、こうして自らが取りたてた分は、直接自分(債権者)で受け取っても良いことになっています。
注意していただきたいのは、裁判所の許可も、ここでいうA社の同意も不要という非常に強力な権利ですから、その取り扱いには慎重を期していただきたいと思います。
現実的に自分の債権回収に活用しようと思えば、まずは一度、専門家へ相談された方が無難でしょう。
やってはみたが、後から裁判にかけられて返す羽目になった、ということもありえるからです。
まずは相手の状況を見極め、そこから回収方針を定めることが先決です。
未回収の売掛金と共に心中する?
実際に、当社の顧問先やご相談に来ていただく会社でも、高確率で未回収売掛金や貸付金が残っていて、既に倒産していたり、所在不明なこともあるのですが、相手先が営業している状態で回収できない売掛金があることもかなり多いです。
そうした中小企業の社長に聞いてみると、 ・取引がなくなれば売上減少が避けられないため円満解決したい考えが根底にあるようです。
既に資金繰りが悪化している会社と付き合うのですから、危険な賭けになることが多いはずです。
であれば、本当に円満解決できる相手なのか、最悪の場合でも回収できるような相手なのか、そして、むしろ今後付き合うべき相手なのかの検証がなされているべきだと思います。
判断基準
1.「倒産のサインはどれくらい出ているか」
【営業面】
⇒販売先に変化があった
○主要な販売先が倒産した
○クレームから主要な取引先に取引を停止された
⇒仕入先に変化があった
○主要な仕入先がかわった
○理由なく注文が大幅に増加した
○ライバル会社への発注分が急にこちらにくるようになった
⇒商品構成が大幅に変わった
○旧来の仕入先に未払いが発生し、仕入できなくなったために新しい仕入先が入ってきた
⇒在庫が積み上がっている
○商品・製品にクレームが多く返品が多い
○売れいきが悪く在庫が積み上がっている
⇒新規事業や関連事業がうまくいっていない
【財務面】
⇒支払日が遅れた・変更された
⇒回収額が約束と違った(請求書どおりに払わない)
⇒支払方法変更の申し出があった(現金・小切手から手形へ)
⇒手形サイト延長の申し出があった
⇒主取引銀行が変わった(支払銀行の変更)
⇒脱税等の不正で摘発された
⇒ノンバンクからの借入の噂
⇒保証金取崩しの申し出があった
⇒社長や経理責任者が支払日に不在がちになった
⇒小口払いはするが大口支払は延ばそうとする
⇒従業員の活気がなく、仕事が投げやりになってきた
⇒従業員が会社の文句ばかり言っている
⇒従業員の定着性が悪くなった
⇒本業に関係ない事業に手を出し始めた
⇒ハッタリをきかせた大きな話ばかりするようになった
このようなサインです。思い当たる節がありませんか?当然、多ければ多いほどに危険です・・。
2.「支払意思は明確か」について
「払います。」というだけで、いつまで経っても払ってこない取引先があると思いますが、これはまったくダメです。
表面的に「払います」という言葉で支払意思を判断するのではなく、なぜ払えないのか、いつまでに、いくら、どのような原資で払うのかなどについて、具体的に説明できるのか、その裏付けとなる資料があるのかどうかを支払意思が明確かどうかの基準としてみてはいかがでしょうか。
3.「支払能力はあるのか」
もしもの場合に、差押えしてでも回収する原資があるのかどうか、支払能力の有無はこう定義すべきだと思います。
興信所の点数や業歴・知人の紹介だから、昔からの付き合いだから大丈夫などの推論によるものでは、支払能力はまったく判断できません。
逆に、もしそのような判断基準であれば危険です。
支払能力の判断は、そもそも、何が支払能力足り得るのかを知ることがとても重要になってきます。
一般的には、預金、売掛金、不動産などが挙げられます。
これらも、できる限り裏付けを伴わせるべきでしょう。
4.「財務状態はどこまで悪化しているか」
これを測るためには、
・決算書(できれば3期分)
・最新の試算表
・資金繰り表
・銀行借入一覧
などを見せてもらうことができれば詳細に把握することができます。
まずは、このような資料を出してくれるのかどうかが一つの基準であり、次に、出してくれた資料、または興信所などにある資料を分析した結果、どのような状態なのかがもう一つの基準です。
このようにいくつかの基準を作って、本当に円満解決できる相手なのか、最悪の場合でも回収できる相手なのか、むしろ、今後付き合うべき相手なのかをよく考えていただきたいと思います。
プロセスを細分化して未入金・未回収効率を下げる
売掛金の発生から回収までの流れを考えていきましょう。
いかがですか?
自社で機能していないと思われる部分はありましたか?
【ポイント】
実際に改善活動を行っていくためには、プロセスを細分化して自社の現状を確認すると共に、何が理想的なのかも考えていかなければいけません。
そうして、現状と理想的姿の間にあるギャップを見つけていくことで、どうすれば改善していけるのかを考えやすくすることができます。
1.取引先の審査
◇取引先の情報収集
◇取引の可否決定
◇取引限度額の設定
◇取引条件の設定
◇契約条件の検討
↓
2.契約
↓
3.取引開始
↓
4.取引先の管理
◇請求業務
◇入金確認
◇取引先の定期チェック
↓
5.未入金が発生
↓
6.自社による回収活動
◇回収プラン策定
◇支払能力調査
◇支払意思喚起
◇交渉(口頭・手紙・内容証明)
↓
7.法律家への相談
↓
8.強制回収アクション
◆自社対応
⇒差押え手続
⇒裁判
◆法律家対応
⇒法律家名での内容証明郵便(督促状)
⇒差押え手続
⇒裁判
↓
9.回収
以上のような流れです。
未入金管理の基本は"期限を切ること"
未入金先へ連絡を取って、まず何をするかといえば
1.未入金理由を尋ねる
2.支払期限を切る
【"期限を切る"にもやり方がある】
回収交渉の基本は"期限を切る"ということですが、この期限の切り方にも、正しい方法と正しくない方法があります。
早速トーク事例を見てみましょう。
Aさん:「すいません。まだ御社からのご入金を確認できていないのですが、どうなっていますでしょうか・・。」
Bさん:「あ~すいません。すっかり忘れていたみたいです。すぐにお支払いしますので。」
Aさん:「では、今月中には払っていただけますか?」
Bさん:「わかりました。すいません。」
Aさん:「それではよろしくお願いします。」
Aさんは、支払期日を切れたことに満足しているかもしれませんが、"自分から期限を提示"したことで、もしかしたら損をしているかもしれません。
なぜなら、Bさんからしたら、それこそ10日待ってもらえれば助かると思っていたのに、思いもよらずAさんから今月中と言われ、心の中では小躍りしていたかもしれないからです。
これが積もり積もれば、大きく資金繰りに影響してくることになるのです。
【"後出しジャンケン"交渉術とは・・】
希望する条件に合わなければ、
「それは困りましたね」
「もっと早くなりませんか?」
「そんなに資金繰りが厳しいのですか?」
とか、他にも、
「すいません。通常の入金日から1ヵ月を超える場合は、私の判断ではご返答できないものですから、また追って上司の方からご連絡させていただきます。」
のようなルールを作っておくなどして、"牽制"します。
こうして条件交渉を繰り返し、当初から希望していた条件か、それよりもよくなってから条件を飲めば良いのです。