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資金調達とリスケジュール
資金調達とリスケジュール(融資の返済金額減額や猶予)、どちらをやったらよいか。
金融円滑化法により、企業においてリスケジュールという手法は一般的になり、多くの経営者が、抵抗が少なくリスケジュールを行うことができるようになりました。
しかし、リスケジュールを行わずに、通常通り返済を続けられるのならその方がよいのです。
リスケジュールを行うと、やはり企業としては、一歩踏みこんだことになるのです。
リスケジュールは、全銀行一律に行うことが鉄則ですが、リスケジュールを行うと、リスケジュール期間中は融資を受けることができません。
そもそも、現状、銀行から融資が出ない状態でリスケジュールを行って融資が出ないといってもそれは問題ないですが、現状、銀行から融資は出る状態であるのにリスケジュールを行って融資が出なくなることが問題なのです。
だから、銀行から融資は出る状態であるのに、リスケジュールを行うという選択はありえないわけです。
銀行から融資が出ず、一方で通常どおり返済を進めると資金繰りが厳しくなるからリスケジュールを行うわけで、融資は出るのにリスケジュールを行うのは間違っています。
企業としては、そこを間違って判断してはなりません。!
銀行から融資が少しは出る場合のリスケジュール判断
次のようなケースもあるでしょう。銀行から融資は出るが、融資でいっぱいいっぱい出る金額より、返済負担の方がずっと大きいケースです。
企業が現金流出するのは事業赤字と融資返済ですが、事業がトントン、つまり事業で流出する現金は0とし、毎月融資返済が500万円ある場合。
毎月現金が500万円流出し、年間6,000万円流出してしまうので、このような企業は年間を通じて6,000万円を調達する必要があります。 ただ、いくらがんばってもせいぜい2,000万円しか調達できない場合、どうしたらよいでしょう。
その場合、さっさと2,000万円を調達して、調達して少し経ってからリスケジュール交渉をスタートする、というやり方になります。
企業としては、一番手元に現金が残るやり方を考えるべきです。
資金調達を行うと同時にリスケジュール交渉を行うと、銀行から見たら「はじめから返さない気だったのか。」と見られてしまうので、融資を受けた銀行においては2、3回返済してからリスケジュール交渉、一方で融資を受けられない銀行にはすぐにリスケジュール交渉を行って返済金額を0円近くにすることが、企業の手元により多くの現金を残すことになり、有効となります。
そして、事業が赤字であればすぐに利益向上対策をとり、なけなしの現金を減らしていかないようにしなければなりません。
既にリスケジュールをしているので新たに借入できない場合
中途半端なリスケジュール、つまり元金返済が一部しか減額されていなかったりしていませんか?
『正常な運転資金』の部分は元金ゼロにしてもらうようしっかり交渉しましょう。
リスケジュール期間は、手間がかかりますが3~6ヶ月と短目にしてみて、できるだけ銀行と交渉する時間を増やすようにしましょう。コミュニケーションの頻度が、あなたの会社を救う機会になります。
また、資金繰り安定のための金利引下げも積極的に交渉しましょう。 資金繰りが良化すること、間違いなしです。
では、『正常な運転資金』でない運転資金の場合はどうでしょうか?
ここは、最長3年間の元金据え置きを依頼してみましょう。
その間に、事業を立て直し、適正な利益を出し、返済開始を実現しましょう。
3年間の時間があれば【必ず事業を再生します】と、銀行で言えるくらいの決意を持ってください
リスケジュールにおいて銀行ごとにいくらずつ返済するか
リスケジュール(返済条件変更)を申し込んだ後、かならず問題となるのが「各銀行に毎月いくらの返済をするか」という問題です。
今回は、各銀行への返済額を決める方法について説明します。
【具体的な手順】
手順1 今後の収入と支出を冷静に判断して計算する。
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手順2 計算した収入と支出にもとづいて毎月確実に返済できる返済総額を計算する。
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手順3 返済総額を各銀行に配分する方法を決める。
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手順4 各銀行との個別交渉に入る。
手順1 今後の収入と支出を冷静に判断して計算する。
1)現状の収入額と支出額を表に書き出す。
2)次に当面1か年の予想資金繰り表を作成する。
綿密な経営改善計画を作成することから始めるのがベストです。
しかし実際には時間的な余裕もなく、作成方法もわからずにいる企業がほとんどです。
資金繰りは待ってくれません。スピードがもっとも大事な問題ですので、銀行側にその旨を正直に伝えて、後日改めて綿密な経営改善計画を提出することで了解を得ます。
まずは資金繰りがわかる資料を作成して現状を把握することから始めましょう。
手順2 計算した収入と支出にもとづいて毎月確実に返済できる返済総額を算出する。
作成した収入と支出にもとづいて、実際に返済できる金額を決めましょう。
一度変更した後で、再度減額を申し込むことは信用の失墜となります。
よって確実に返済できる金額を銀行に提示することが大事です。
次のことを考えて返済額の目安とします。
- 経常的な年間の返済財源は、「年間利益+減価償却額」が上限です。
設備維持にかかる投資資金や、優先して返済しなければいけない資金を差し引いた金額以内を返済財源と考えましょう。 - 資産処分等の返済財源がある場合は、処理できる日時に十分余裕をもたせて返済計画に組み入れましょう。
- 現預金が月商の1か月分もないことは経験則上異常な状況です。
また今後の銀行調達ができないことを考えれば2か月分あっても少ないぐらいです。
十分な現預金ができるまでは思い切って元金据置の返済を依頼することも一つの方法です。
手順3 返済総額を各銀行に配分する方法を決める。
案分方式(プロラタ方式)で算出するのが基本的な考え方です。
具体的な案分方式の計算式は次の様になります。
(案分計算の具体例) X銀行 債権額 1,000万
Y銀行 債権額 2,000万
Z銀行 債権額 3,000万
総債権額 6,000万
毎月返済可能財源 6万
毎月返済可能財源×(X銀行債権額÷総債権額)=X銀行への毎月返済額→6万×(1,000万÷6,000万)=1万
毎月返済可能財源×(Y銀行債権額÷総債権額)=Y銀行への毎月返済額→6万×(2,000万÷6,000万)=2万
毎月返済可能財源×(Z銀行債権額÷総債権額)=Z銀行への毎月返済額→6万×(3,000万÷6,000万)=3万
手順4 いよいよ各銀行との個別交渉に入りましょう。
銀行側は少しでも多くの返済を要求してきます。
あくまでこちら側主導で決定していくことが大事です。
こちら側主導でないと、各銀行がそれぞれに主張する金額や根拠に惑わされていつまでたっても調整できない状況となってしまいます。
本来ならばメインバンクがその役割をするのが筋でしょうが、中小企業や個人事業主に対しては、そこまで動いてくれないのが実情です。
公平な立場から各銀行の調整をしてくれるどころか、メインバンクだからと債権者側の権利だけを主張するひどいケースもあります。
リスケジュールのさまざまな返済額算出根拠
(ア)債権残高で案分する。
先ほどの例で説明した案分方法です。
もっとも基本的な方法であり、この方法で進めればたいていの銀行は納得します。
下記の(イ)~(オ)の方法はかなり高度な交渉力が必要となりますので、一般の方にはお勧めはできません。
しかし債権者側からは自行の取り分を少しでも多くしようと「屁理屈」のように使ってきますので考え方だけは知っておきましょう。
(イ)担保で保全された額を除いて案分する。
つまり無担保部分を優先して返済する方法です。
担保で保全されている部分は確実に回収できるので、後回しで返済するという考え方です。
弁護士等が介入して配分するときによく利用する方法です。
無担保の銀行等がよく主張する方法です。
この方法を主張してきた場合には、担保処分で返済するのではなく、あくまで毎月の収入での返済を前提としていることを言って理解してもらいます。
(ウ)当初の返済金額により案分する。
先ほどの例で説明した案分方法を「債権額」でなく「毎月の返済額」で案分計算する方法です。たとえば、X銀行の返済額は次の様に決まります。
(案分計算の実例)
X銀行 当初の毎月返済額⇒20万
Y銀行 当初の毎月返済額⇒30万
Z銀行 当初の毎月返済額⇒40万
当初の毎月返済総額⇒90万
毎月返済可能財源 ⇒6万
毎月返済可能財源×(X銀行の当初毎月返済額÷当初毎月返済総額)=X銀行への毎月返済額→6万×(20万÷90万)=13,333円
(エ)それぞれ借入金1本ごとに同額の返済金額とする。
これは次の様なケースでよく利用します。
1)少額の返済額を提示した時に便宜上採用する。
2)借入金の種類上、1万以上の返済額を設定する方法をとるしかない場合。
たとえば、制度融資(保証協会付)や一部の保証会社付融資でこのケースがあります。
多くは、債権者側の交渉条件というよりも制度上やむをえない事情からです。
理由を聞いた上で各行の理解を得て了解しましょう。
ただし将来返済金額が大きくなってきたときには案分方式にかえてゆきましょう。
(オ)返済財源を考慮して検討する。
当初の返済財源を考慮して変則的に返済財源を決める場合があります。
たとえば、当初に特定の売掛金や未収入金の回収を返済財源としていたときには、その分をそのまま充当する場合があります。
もちろん他行の承諾はとっておくことが前提です。
そして充当後の残額分のみを各銀行で案分する方法です。
しかしこの方法は各銀行の同意が得られなかった場合に長期間もめる原因にもなりかねませんので要注意です。
■リスケジュールの各銀行との個別交渉
当初の返済条件を変えなければならなくなった事態を招いたのはこちら側の責任ですので、まずは詫びることが大事です。
この姿勢は最後まで忘れてはならないことです。
しかし、一方で今後の返済を行っていくのはやはり自分側であることは間違いないことです。
最後まで返済に責任を持つという意味でも、自分自身が主導的になって返済方法を提案していくことが大事なことだと思います。
リスケジュールのタイミングをどう判断するか
リスケジュールにおいて重要なのは、そのタイミングです。
このタイミングは、早すぎても遅すぎてもいけません。
タイミングが早ければ、リスケジュールをしなくてもよかったのにリスケジュールすることになってしまったり、タイミングが遅ければ、遅れる間に返済がどんどん進んでしまうので、資金が枯渇してしまうことになったりします。
まず、リスケジュールを行うべきと判断とは?
銀行から新たな融資が受けられるかどうかを基準にします。
例えば、事業におけるキャッシュフローが年間0、毎月の返済金額が300万円の企業があるとします。
その企業は、年間3,600万円の返済を行うことになります。
キャッシュフローが年間0で、返済額が年間3,600万円あるため、その間に新たな融資が受けられなければ現金預金は△3,600万円、減少してしまうことになります。だから、その企業は年間、3,600万円の融資を受けられるようにしなければならないのです。
しかし、銀行から融資が全く受けられなかったり、受けられたとしても年間返済額3,600万円に到底、満たない金額の融資しか受けられなかったりすると、現金預金は枯渇してしまうことになります。
どこの銀行からも融資が受けられなくなったり、もしくは年間に消えていく現金預金を補う金額に到底、満たない金額しか融資が受けられなさそうであったりすれば、それがリスケジュールを行うタイミングであります。
注意!
しかし、どこの銀行からも融資が受けられない、ということを気づくことが遅れてしまうと、リスケジュールのタイミングが遅れてしまうことになります。
リスケジュールのタイミングが遅い企業の例
例えば、現在23年3月、現金預金1,000万円、毎月の事業キャッシュフロー0、月間返済額300万円とします。 今、どこの銀行からも融資が受けられないことが分かったら、リスケジュールするタイミングは、今、ということになります。
しかし、今、融資を申し込まず、そこから3ヶ月×300万円=900万円の返済を進めて、23年6月に残り現金預金100万円になったところでやっと銀行に融資を申込み、審査が通らず、どこの銀行からも融資が受けられないということが分かったとします。
その場合、リスケジュールを行っても残り現金預金が100万円しかありません。
融資が受けられないことに、気づくタイミングが遅いのです。
23年3月時点、残り現金預金が1,000万円の時点でどこの銀行からも融資が受けられないことに気づいて、すぐにリスケジュールを行えば、残り現金預金1,000万円がある状態になり、多少は余裕を持って、経営を行うことができます。
ここから考えると、各銀行のあなたの会社への融資スタンスを常に把握しておき、リスケジュールのタイミングが遅くなりすぎないようにすることが重要であることが、分かります。ここから考えると、各銀行のあなたの会社への融資スタンスを常に把握しておき、リスケジュールのタイミングが遅くなりすぎないようにすることが重要であることが、分かります。
次のようなケースではどうでしょう。
リスケジュールのタイミングが遅い企業の例年間の事業キャッシュフローは0、年間3,600万円の返済があり、一方で現在は、ある銀行で1,500万円は融資が受けられそう(ただその銀行から今後1年間は追加融資は受けられなさそう)であるが、他の銀行からは融資が受けられる見込みない。
この場合、年間で消えてしまう現金預金3,600万円に対して、年間で受けられる融資が1,500万円しかなく、リスケジュールを行いますが、その1,500万円の融資は、すぐに受けておくべきです。
- 融資を受けられない他の銀行ではすぐにリスケジュールを行い、一方で1,500万円の融資を受けられる銀行においては融資を受けておき、2,3ヶ月返済したら、その銀行でもリスケジュールを行うのです。
- 1,500万円の融資を受けられる銀行には、実際に融資金が入金となるまでは、もちろん他行でリスケジュールを進めているという話をしてはなりません。
- またその1,500万円の融資が信用保証協会保証付融資だったら、他行での保証付融資のリスケジュールを同時に進めてしまうと、その1,500万円の融資の保証協会保証はおりないことになってしまうので、それも間違えてはなりません。
このように、各銀行の融資スタンスをはかり、リスケジュールのタイミングが遅くならないことにすることが重要です。
■次に、リスケジュールのタイミングが早すぎないようにする、とはどういうことかについて述べます。
特に、金融円滑化法によりリスケジュールという手段が一般的なものになってから、リスケジュールを行わなくてもよいのにリスケジュールを行っている企業を、多く見受けます。
第一に、銀行から普通に融資が受けられるのに、その融資を受けることを選択せず、リスケジュールしてしまう企業、です。
例えば、年間の事業キャッシュフロー0、年間返済額3,600万円の企業で、年間3,600万円の融資を受けられる企業であるにもかかわらず、これ以上融資を増やしたくないという理由で、リスケジュールを行ってしまう企業があります。
この場合、リスケジュールを行ってはなりません。
リスケジュールは、銀行から融資が受けられず、返済負担が大きくなった場合にとる「次の手段」です。
なぜなら、リスケジュールを行うと、やはり銀行は、リスケジュールを行った企業に対しては厳しい見方をするようになるからです。 その銀行は、その企業に対し、リスケジュール期間中は融資を出さないし、また返済を再開し、正常な状態に回復するのも時間がかかります。