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粗利率へのこだわり
建設業界はどちらかというと粗利額発想であり、一人当たり月間200万円の粗利額を稼ぐという生産性基準を中心にマネジメントされているケースが多い。
このやり方はシンプルでわかりやすく管理コストも低いため、営業パーソンに目標を達成する力がある場合は良いマネジメントである。
しかしながら、「額」発想は「低粗利でも受注すれば良い」という考えになり、率を下げて受注することが慢性化すれば、結果的に生産性を下げ、企業としての競争力を失っていくことになる。
粗利率は利益の第一ボタンであり、競争力を表すバロメーターでもある。
粗利率低下の要因
1.トップが粗利率に対する関心が低い
経営者が"値決めは経営"ということ理解していない「トップの理解不足」
2.営業がライバルに仕事を取られるのが怖くて価格を下げすぎている
受注したいがために、勝手に値段を下げている「営業力不足」
3.粗利をコントロールする仕組みがない
粗利率を管理職がチェックしていない「管理力不足」
4.お客様の言いなりで値下げしている
競争力がある商品にもかかわらず、相見積りと言われて簡単に値下げしている「情報収集力不足」
5.商品戦略や競争力のある商品がない
市場の新商品を常に探していないという「商品力不足」
6.見積りでは儲かるはずであったが終わってみると赤字である
当初は大丈夫という報告であったが、結果は赤字という「原価管理力不足」
数字へのこだわりを持ち続けよう
皆さんは数字で話す癖がついているだろうか?なぜこういった質問をするかというと、数字で語れない幹部が非常に多いからである。
数字に強い幹部であれば、「対目標比で98.5%、昨年対比は101.7%。差額は24万円、Aランク情報は約200万円分あるので、確実に詰めれば目標を達成します」と、即答できるはずである。このような数字で語れる幹部は、5人中1人もいれば良い方だ。
売上目標があっても利益目標がないと
- 利益額に意識が向かないのはもちろん、計数能力を高めることは難しい。
- いくら儲かったのかがわからない。
- 売上げ重視だから、値引きをしてでも受注に走るであろう。
その結果
ベンチマーク先企業の売上高経常利益率、粗利益率、労働分配率などと比較して、自社が目標とする数値を明確にする。そのためにも数値に対するこだわりを持ち続け、部下にも数字で語らせるように教育を徹底していくことが必要だ。
コストダウンが進まない理由
現場においてはいくらトップが指示を出しても、なかなかコストダウンが進まないケースによく遭遇する。往々にして、それは調達・仕入れの現場でよく見られるが、現象を分析すると次の4つのケースにパターン化される。
1.コストダウンを正当に評価する制度がないケース
○努力しても大きく評価されない
○前年同様の取り組みを継続するだけで、調達のトラブルを恐れ新たなチャレンジをしていない
2.調達の体制・インフラが未整備のケース
- 「何を、どれくらい、いくらで、どこから、どういう条件と方法で、どの位の頻度で購入しているのか?」など情報が各部門間に分散し、調達の全体像を一元的に把握することができない
- 同じモノを複数部署で購入していたり、同一業者との取引を複数の担当窓口が行い、外部調達の全体像を把握することが困難となっている
- 調達(支払い)部門と利用部門が異なり、当事者意識が徹底されていない
3.試算や交渉のスキル、ノウハウが個人によりバラツキがあるケース
- 業者の市場構造・市場価格に関する情報が、組織的に収集・蓄積されていないため、価格の妥当性に関する判断がなされていない
- 業者との交渉ノウハウがなく、業者にとって都合の良い価格や契約を鵜呑みにしている
4.管理プロセスが未整備なケース
- 当初に設定した購入価格を見直すこともなく、支払いが継続されている
- 新規業者との交渉が実行されておらず、既存業者が長期間固定化し、「持ちつ持たれつの関係」となっている
常に自社の現場がどのような状況にあるかを把握し、適切な対応を図っていく必要がある。
客単価重視から客数重視に転換すべき
経営における「戦略」の定義では
戦略が決定された状態とは、経営資源の配分が決まった状態だと言える。「配分」だから、数値化や比率化ができる。
- たとえば複数の事業単位や商品群、あるいは顧客ターゲット層を持つ場合、それらへの売上構成比率をどのように設定するかを考える。比率の数値をみれば、何を重点としているかがわかる。
- 売上以外に、人員構成比率にも戦略が反映される。人員のいわゆる「直間比率」をどうするかといった問題等は、根本にある戦略に基づいて決まる。
- 資金の配分についても同様だ。手持ち資金のうち、何に対してどれだけ投資するのか。戦略の意思決定なしに、それが決まるわけがない。また、その配分が決まらないうちは、戦略策定が完了していないということにもなる。
- 売上に絞って考えてみると、それは「客数」と「客単価」の掛け算になる。同じ売上を稼ぐにも、それらの組み合わせは無限にある。そこにも戦略が反映される。
何を重視するのかは、まさに戦略の問題だ。結果として売上が同じなら、「客数」で稼ごうと「客単価」で稼ごうと、かまわないではないか、ということにはならない。
商品貢献度分析によるコスト圧縮
主要メーカーは消費不振に対応して、以下のように重点商品に開発と生産販売を集中しコスト圧縮を進めようとしている。
<重点商品の判断>
(1)商品の4区分(商品回転率=売上高÷平均在庫高)
- 高粗利益率・高商品回転率...かせぎ筋商品:利益を支える重点商品
- 低粗利益率・高商品回転率...売れ筋商品:品切れに注意する
- 高粗利益率・低商品回転率...もうけ筋商品:利益の大きい商品
- 低粗利益率・低商品回転率...不利な商品:切捨てを検討する
不況期の重点商品の優先順位は、①→②→③(④は廃止)である。②と③で、売れ筋商品を優先するのは、不況期にはできるだけ在庫を少なくするオペレーションが重要だからである。
(2)交差比率・貢献比率
重点商品を数字で判断する手法が、交差比率(粗利益率×商品回転率)・貢献比率(交差比率×売上高構成比)の算出である。交差比率・貢献比率の高い商品が重点商品である。
<在庫圧縮によるコスト削減>
(1)在庫圧縮目標の設定と貢献度基準での削減
- 圧縮目標の設定...過去3年の在庫高推移→月別・商品別在庫目標の設定
- 商品貢献ABC分析...商品貢献度分析→ランク別の商品管理方針の確定
(2)在庫圧縮の効果
- 保管料・保険料・倉荷料・運搬費の削減
- 在庫金利(支払利息)の削減(※)
- 長期在庫・不良在庫処分費の削減
- 管理人件費の削減
※商品在庫は、販売代金を回収しなければキャッシュにならないため、仕入から回収までの間に立替払いが発生する。これを運転資金といい、銀行借入で対応するケースが多いため、在庫が多いと在庫金利負担が大きくなる。
コスト圧縮といっても、さまざまな手法がある。商品貢献度分析という着眼でのコスト圧縮に、これらの手法を参考にしていただきたい。
業績を正しく生み出そう
売上約30億円の卸売業A社がある。A社は1年前、あ と2ヵ月で資金ショートという倒産の危機寸前のところにいた。しかしな がら、役員以外は誰もこの現状を知らなかった。
そこで幹部全員と面談し、改革の火種となりえる人を探した。また危機感を共有してもらうために、業績数値を幹部以上にオープンにして、現状を詳しく説明した。現状を全く知らなかった幹部にとって非常にショックなことであり、当然のことながら青ざめていた。
収支バランスを取るために、人員削減を含む固定費削減を進める一方で、黒字にするためにはいくら売上が必要なのかを明確にした。幹部メンバーを筆頭に、目標売上数字に対して差額がどれだけあるのかを毎日徹底的に意識させ、その差額を埋めるために何をしなければならないのかを考え行動させた。
3ヵ月後、営業努力の甲斐もあって、単月黒字が32ヵ月ぶりに達成できた。単月黒字を発表した時には大きな歓声があがった。まさしく社内全体が同じ方向を向いて、目標に対して真摯に取り組む姿であり、バラバラだった組織がひとつになった瞬間である。全社員が笑顔になり、社内の空気が3ヵ月前と180度変わっていた。
あるべき姿と現状とのギャップを明確にすることで"正しい危機感"を与え、部下を同じ方向にどれだけ正しく向けられるかが、業績を正しく生み出す近道である。
1+1=2では組織は成り立たない。1+1を3や4、あるいはそれ以上にするために何をしなければならないのか。これを実現するのが幹部の役割である。
目標必達の為の業績先行管理
多くの企業は業績低迷にあえぎながら、"業績を向上したい""揚げた目標を達成したい"と考えている。それらを実現するために用いられる手法が、「業績先行管理」である。
遅行管理×
前月の結果を見て何が良かった、悪かったと議論する。
終わったことをいくら言っても手が打てない。
同時管理×
今月の売上げ状況を確認しても、すでに残り少なくなった時点で「当月の対策・・・」と言ったところで、打てる手など限られてしまう。
先行管理○
先行で3~6ヶ月先までの累積目標から、現在確定している売上げを差し引いた類型差額に対して対策を打つ。
あるシューズ卸会社は、かつては月次決算を行うも翌月の15日過ぎにやっと数字がまとまるという遅行管理で、気付けば売上げ未達の月が年間の大半を占めるといったジリ貧業績体質であった。 この体質を改善するために先行管理を導入したものの、初めから8カ月の先行管理ができたわけではない。ステップを踏んで1年半がかりで導入した。
まずは当月と翌月の2カ月間の累計差額対策から取り組み、3カ月→6カ月→8カ月と期間を延ばしていった。そして8カ月先行管理が定着してきた約2年後、毎月の売上げが目標の105~120%の割合でクリアできる強い体質に生まれ変わった。もう売上げ未達の月はなくなっていた。
同社が生まれ変わったポイントは、ライバルより先に手が打てるサイクルが出来上がったことにある。今より少し先までを見ることができれば、余裕を持って営業活動が行え、目標必達の強い体質が出来上がるのである。